ミニアルバム「虹」 全曲コメント
語り手 : 布屋榮汰朗
はじめに
2007年7月に発売されたミニアルバム「虹」の全曲について、曲が出来た経緯や、裏事情を語ってみました。
基本的にこのアルバムはこれまで僕らが影響を受けてきた音楽へのオマージュです。
1.春のすきま
中国の桂林を川下りの映像を見ていたら、ふっとメロディーが思いつきました。
早春の小舟の上で、筆で手紙を書きながら、ゆったりと進む感じです。船頭が無言で櫂を漕いで。李白とか杜甫みたいな気分。それがどんな気分かよくわからないけど。雰囲気です。
なので、デモの段階ではチャイナ色の濃い変な曲でした。効果音にビョーンビョーンという弦が伸びきった音を使い、声とドラムにディレイがかかってて、模糊としたダブでした。
その雰囲気もよかったのですが、もっと透き通った部分を前面に出したかったので、アコースティックにアレンジしてみました。そうしたらデモと比べて、音がすきまだらけになって。実は「春のすきま」という名前は、そこからつけました。かなり適当です。でも、後でタイトルを見て「いい曲名だな」と思いました。
あと、この歌詞に出てくる「手紙」にはちゃんと送り先を意識して作詞してます。ある歌に対する返歌のつもりなんです。曲調や歌詞を読めば、もしかしたらわかるかもしれません。まあ、そんなこと気にしないで聴いていただければと思います。
2.サマーポケット
muraparkの曲です。これは生みの苦しみを味わいました。muraparkが曲ができたとやってきたのですが、ギター片手にサビ部分を鼻歌で歌って「あとはよろしく」と言ったきりだったのです。で、僕がAメロとそのメロディと全部の詞を作って、清水がキーボードを考えて。あ、イントロのキーボードはmuraparkが考えてきました。
僕がこの曲のサビを聴いたときに、すごく夏祭りの空気があったから、ドンドコドッドみたいな、和太鼓のリズムを前面に押し出したアレンジを考えていたんです。でも、「それはないだろ」みたいな雰囲気で。muraparkはもう少し軽めのスカを狙っていたみたいでした。それで三人で色々試して、レコーディング中も何回も変わって、結局3回ぐらい変わったように思います。最後にmuraparkが画竜点睛とばかりに、シンセベースの音をチョイスして完了。
最後の最後まで決まらなかったせいか、必要以上に音が重なってるように思います。
今の踊れるロックは4つ打ちばかりで、飽きてます。いつかもっと大胆に今でも祭り囃子のグルーヴ感って独特だと思います。祭りのビートを取り入れられたらと狙ってます。
ライブではアルバム収録されているのとは変わって、すごくシンプルな演奏で、そちらもなかなか好評みたいです。
3.中央線
2008年2月にiTunes Music Storeで「今週のシングル」になりました。おかげで良くも悪くもうちらの代表曲になっています。
アルバムの中では一番最後にできた曲なんです。他の曲が完成しつつあった中、疾走感のある曲が「そして風来坊」以外に見当たらなかった。で、こりゃいかんなと思った。
制作前にレーベルからネオ渋谷系ってことで出すよって言われてたので、じゃあここはひとつアズテック・カメラやペイル・ファウンテンズみたいな切ないネオアコにオマージュを捧げるつもりで一曲作ろうって。なんか不純な動機です。
だから最初は詞も、もうちょっと青春な感じを考えていました。ところが、中央線に乗ってるときに「赤い光の中オレンジ色がつきぬける」という詞を思いついたら、どんどんイメージが広がって、今の歌詞がほとんどできてしまった。詞からできたのは初めてです。
JR中央線には東京という戦場への兵站のイメージがある。行く先の不安。沿線の街や人々はアクが強すぎて、啼かず飛ばず。そこに勇気や希望の歌詞は白々しい。それなら生々しくその不安をむき出しにして、後ろ向きでも一度浄化したかった。中央線ユーザーにはこの感覚がわかってもらえると嬉しいです。他の私鉄なんかにはわからない感覚なんじゃないかな。
そんな意味を込めた詞にネオアコ風に曲をつけてみるのだが、うまくいかない。中央線はネオアコになれなかった。
で、色々試して最後に普通の8ビートにしてみたら、ピタっと収まった。あ、これだ!って。こうなったら後は早かった。
当時、くるりのベスト版が出ててよく聴いていたから、
似ていると言われると、その影響は少なからずあったんだと思います。
最初に漠然と思っていたものとは違う曲ができ、でもそれがiTunesに取り上げられるなんて、不思議なものです。ちなみにこの曲をメンバー以外で最初に評価してくれたのはMr.Cockrobinのマツオロビンさん。どれをプッシュ曲にするかというレーベルの打ち合わせのとき、「間違いなく"中央線"でしょ」って。
これがネオアコならどんな曲になるか想像がつきませんが、個人的にはネオアコの香りを感じてくれると嬉しいです。
なお、この「中央線」は長きに渡って活躍した201系車両へ捧げます(2008年3月には新車両233系に置き換え完了)。
4.そして風来坊
この曲は、旧NEON時代から「眩暈(めまい)」という曲で演奏されてました。そのときはメロディーの尺が今の倍。「ながいゆめがさめーてー」っていうところを「なーがーいーゆーめーがーさーーーめーてー」って歌ってるんです。曲のテンポは同じです。
初期の頃はタイトルどおり、めまいがするようなモワモワっぷりでした。途中でmuraparkがテクノ風にアレンジして様相を変え、アルバム作成のときにもうひとつアレンジを進化させたというか、リメイクですね。で、現在の形になってます。
僕は昔、マイブラとかライドとかチャプターハウスのような波のような轟音シューゲイザーが大好きで、それとソフトロックが結びつかないかなぁと思ってリメイクしました。だからコーラスはソフトロックでギターはシューゲイザー。まあ、この曲はごった煮です。
あと、バスドラ3つ打ち(3拍子だから・・・)はそんなにないんじゃないかな。でも、3つ打ちだから若干乗りにくいかもしれませんね。ま、ライブではガツンガツンと演奏される曲です。
5.世界が雪に染まる頃
最初は「百年後」って名前で作ってました。<奇想天外>という植物の存在を知人から教えてもらって思いついた曲です。この植物、なんでも数百年という長い寿命の間、ひたすらに砂漠で降らない雨を待つ植物らしい。すごくないですか?ずばり「奇想天外」(未発表)という僕らの曲も、やはりここから発想を得ています。
そう思って歌詞を見てもらえれば、ちょっと違うふうに見えると思います。
一番最初のコンセプトは、ブライアン・ウィルソンばりの「ルートをはずしたベース音」でメロディアスなベースを奏でることでした。実際できあがったら、少しもそんなことなくて、めちゃめちゃルート弾いてます。
雪の風景を音やメロディに乗せたくて、四苦八苦しました。この曲に関してはあまりメンバーと共同作業してなくて、ほとんど僕のソロ作品と捉えて結構です。
サマーポケットと並んで、打ち込み割合が高く、MIDIも使ってます。とある大好きなユニットのPVがビジュアルのイメージです。あのビデオクリップの音を消して、この曲を流すと、結構いいんですよ。PVジャックって言えばいいのかな。
僕にとってはキーが少し高い上に、サビのメロディがちょっと難しいんですよね。自分で作っておきながら。だからライブではまだやったことがない。今のサポートメンバーでやると、たぶん猛吹雪になっちゃいそう。それはそれで面白いんだろうけど。いつかアコースティックでやってみたい曲。
6.SEASON
大好きなフィッシュマンズのカバーです。もう畏れ多いったらありゃしない。
アルバムを出すにあたり、レーベルとして渋谷系のカバーを一曲入れてほしいという指令があったんです。フィッシュマンズが渋谷系と呼べるかわかりませんが、やってしまいました。本当なら、ちゃんとバンドという形でやりたかったのですが。エレクトロに挑戦したかったというのもあります。これ以上は語りたくありません。ちなみにフィッシュマンズはカラオケでよく歌います。曲数少ないです。
7.曖昧旅館
これは旧NEON時代に作られました。かなり初めの頃で、僕が社会人になって初めて作った曲だったと思う。思えばこれが自分の宅録の原点の曲。個人的にすごく思い入れがある曲なので、入れました。
最初はもっとエレクトロで速かった。ひたすらリピートするベースラインとコーラスワークの曲を聴きたくて、自分で作ったのだけど、いざライブでやろうとすると、ベーシストが弾けないんですよね。ああいうベースラインの動きはあまりないらしい。僕はベーシストではないからよくわからないんだけど。
この頃はソフトロックばかり聴いていて、ボサ・ノヴァな雰囲気とか、コーラスワークにメロメロでした。懐かしい。
で、ネオアコ風にアレンジしてみたのが収録されたバージョンです。過去の自分たちへのオマージュでもありますね。このアルバムを出すまでの時間が、この曲の中に蠢いています。聴いてる側はそう思わないだろうけど。この曲を聴くと、色々思い出しますよ。メンバーがころころ変わって、結局延べ何人がこの曲をやったのかなって思う。しばらくは封印。
8.頼りない光
最後の曲です。実はこれ、6曲目の「SEASON」をやる前に、当初カバーしようとしてた曲のオケを元ネタにしてます。なぜうなったかというと、カバーの許可が出なかったから。単純な理由です。
だからコードを追っていくと、もしかしたらあれかなって思うかもしれないです。これは完全に裏事情。企業秘密ってやつです。そして自然にそのアーティストに対するオマージュとなっています。
この歌詞は「中央線」に通じるように作ってます。「中央線」が動いてる状態、こちらは静止した状態で、同じような思いを綴ってるつもりです。なんだかんだで考えて作っているんですけどね。まあ誰も深読みしないか。
おまけ
アルバムタイトルの話。たくさんのアーティストへのオマージュ作品としての位置づけがあり、全体を通して何に似てるってのはないと思うのです。なので、それぞれ独立してるけど、全体で見るとひとつ、という意味を持ったアルバムタイトルにしようと。
そういうことで最終的に「虹」という一文字にしました。これは、純粋にひねり出したものです。虹の色の数って世界で違うんですよね。7だったり5だったり2だったり。だから虹という言葉を修飾したり限定する句をつけるのはやめました。聴く人それぞれで、虹の色の数が違うと思うので。
ジャケットデザインですが、マニアッカーズデザインさんです。群馬の高崎に拠点があるグラフィックデザイン事務所です。実はマニアッカーズデザインさんの佐藤さんは旧NEONの時代から曲を気に入ってくれてからの知り合いでして。ご活躍されてお忙しい中、快くデザインを引き受けてくれたんです。気さくなのに、すごい人ですよ。尊敬してます。
(了)
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